運転補助装置は1976年に導入
ホンダは早くから福祉車両の開発に取り組み、販売するのも早かった。最初に市販化したのは1976年である。下肢が不自由な人が手だけで運転できる身障者用の運転補助装置付き(自操式)車両を初代『シビック』に搭載し、発売した。これが「Honda・テックマチック」システムだ。82年には手の不自由な人のための運転補助装置、「フランツ」システムを実用化している。
以来、ホンダは身体の不自由な人のドライブをサポートし続け、現在は『フィット』に運転補助装置付きの車両を設定した。この手の運転補助装置付き車両を、純正商品として提供しているのは、日本の自動車メーカーの中ではホンダだけだ。
ホンダは自操式車両のイメージが強い。だが、ホンダの福祉車両には車いす移動車に代表される介護車両もある。軽自動車の『N-BOX』からミニバンの『オデッセイ』まで設定しているが、知っている人は少ない。そこでホンダの福祉への取り組みについて、マスコミ向けにオンライン説明会を開催した。
増え続ける要介護、要支援の認定者
日本が高齢化社会に突入したのは、今から50年ほど前のことである。ここでいう「高齢者」とは65歳以上の人のことだ。人口に占める割合が7%を超え、日本は世界に先駆けて高齢化社会へと移行していった。そして21世紀になった今、日本は超高齢社会の時代を迎えている。2018年、日本は65歳以上の高齢者が3500万人を超え、全体の28%以上を占めるまでになった。また、65歳以上の高齢者がいる世帯が、全世帯の半数近くにまで増加している。
このままだと2040年には高齢化率が日本の総人口の35%を超え、4000万人近くが高齢者になる計算だ。平均寿命が伸びることに加え、少子化も加速するから、2060年には全体の40%が高齢者になると予想されている。当然、要介護、要支援の認定者数は増え続けていくだろう。オデッセイABSOLUTE サイドリフトアップシート車(2020年)
要介護、要支援の認定者は、20年前と比べると約3倍に膨れ上がった。介護する人は同居家族が半数を超える。しかも介護する人の大半は女性だ。介護する人の年齢も60代以上と、こちらも高齢化が進んでいる。介護する人たちの負担軽減が求められるが、介護保険制度の改正で、福祉施設のあり方は変わってきた。2025年には国民の5人に1人が後期高齢者になるから、社会保障費や介護人材の不足が懸念されているのである。
地域包括ケアシステムでは福祉車両が重要
そこで住んでいる地域の包括的な支援やサービスを提供する「地域包括ケアシステム」の確立に向けて動き出した。行政としては、たくさんの費用がかかる介護施設への入所を減らし、住まいを中心に、高齢者の在宅サービスを充実させ、自立させる支援へとシフトする方針を打ち出したのだ。これからは自宅が介護の拠点になり、自宅から病院やデイサービスに通う時代になる。
在宅サービスの増加と福祉車両のニーズは拡大しているが、介護する人の負担は大幅に増えてくる。そこで介護や介助する人の負担を減らすために開発されたのが介護式の福祉車両だ。最近は運転しやすいミニバンタイプや軽自動車の車いす移動車が増えてきている。身体の不自由な人の介護や送迎に利用される介護式の福祉車両は、国や自治体によってさまざまな減免、助成措置が用意され、車いす移動車などは障害者、健常者を問わず誰が買っても非課税だ。ホンダは、この介護車、自操車、両方を発売している。
福祉車両の市場は年間4万台前後で推移しており、そのうちの7割が車いす移動車だ。ホンダは介護車両を1995年から充実させ、ライフスタイルに合わせて選べるようにしている。ラインアップは、車いすのまま乗車できる車いす仕様車、スライドドアから2列目のシートが電動で下りてくるサイドリフトアップシート仕様車、助手席が電動で下りてくる助手席リフトアップシート仕様車、助手席が手動で回転して乗り降りをラクにする助手席回転シート仕様車の4つだ。ステップワゴン車いす仕様(2020年)
ホンダのオレンジディーラー制度
ホンダが発売している介護車両は、いずれも標準車と同じように安全運転を支援する「Honda SENSING(ホンダセンシング)」を標準装備している。また、N-BOXと『フリード』、そして『ステップワゴン』には車いす仕様車があるが、介助する人の負担軽減と車いすに乗る人の安全を考えて、電動ウインチを全車に標準装備した。また、降雪が多い地方の人にも安心して使ってもらえるように、各タイプに4WDを設定している。デザインも標準車のイメージを損なわないスタイリングとした。これもこだわりの1つだ。
ホンダの福祉車両は、全国のホンダカーズで買うことができる。だが、福祉車両に対する取り組みを地域に根ざしたものとするために、オレンジディーラー制度を2002年に導入した。これは販売現場の対応力を強化するための体制づくりだ。店舗、スタッフ、デモカーなどを強化し、ユーザーの不安に寄り添える体制を整えようとして始めた認定制度である。
2012年に初代N-BOXの車いす仕様車を発売したのを機に、さらなる強化を図り、地域における核となるマスター店を新設し、介助士資格の取得も要件化した。マスター店では車いす仕様車を中心に、デモカーを4台確保するとともに、介助士資格を持つスタッフも2名以上に増やしている。
また、個人ユーザーや介護施設で送迎している人たちに向けて、安全運転を長く続けていけるようにする活動にも熱心だ。介護する人とされる人、両方の視点で送迎というものを考え、ホンダと各地域が連携して、安心、安全、快適な送迎に向けた安全運転プログラムを提供しているのである。N-BOXスロープ仕様、電動ウインチ作動イメージ
福祉車両の販売台数ナンバー1はN-BOX
福祉車両のカテゴリーにおいて、販売台数ナンバー1に輝いているのが車いす仕様車を中心に安定して売れているN-BOXだ。先代は3度、現行モデルも2度、トップを獲得した。ライバルは法人需要がほとんどだが、N-BOXは大半が個人ユーザーだ。通院などに車いすモードを使っているが、それは3割程度で、普通のクルマとして活用している人がほとんどである。
N-BOXが人気の理由の1つは、優れたパッケージングにあることは言うまでもない。スロープ仕様N-BOXの便利さと快適性はそのままに、介護はもちろん、普通の生活にも使うことが可能だ。現行モデルは後席のヘッドレストが収納タイプだから外さなくてもシートを畳むことができ、車いすを乗せるときのスロープも荷室の床を引っ張るとそのままスロープになる画期的な構造となっている。シンプルな操作で、車いすモードに素早くチェンジできるのは大きな魅力だ。
ホンダに福祉車両があることを知らない人のためにコマーシャルも一新した。介護式の福祉車両は、快適な送迎に加え、安全と安心も大きく向上している。そして見逃せないのが、介護車は標準車と同じように工場の生産ラインで取り付けられていることだ。そのため品質は標準車と全く変わらない。今回の説明会で福祉車両の認識を新たにし、その魅力も伝わってきた。次はホンダが先鞭をつけた自操式と呼ばれる運転補助装置付き福祉車両の魅力について語って欲しいと思う。フィット「Honda・テックマチックシステム」。手動運転補助装置〈Dタイプ〉、ハンドル旋回ノブ〈Aタイプ〉(2020年)
March 16, 2021 at 02:45PM
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【ホンダの福祉車両への取り組み】N-BOX 車いす移動車など、介護車両も知ってほしい - レスポンス
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