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日産キックス車両開発主管に訊く「なぜジュークでなくてキックス?」そこにはキックスのポテンシャルがあった(前編) - MotorFan[モーターファン]

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インタビューは、9月24日に横浜の日産グローバル本社で行なわれた

日産が反攻の狼煙(のろし)として国内に投入した期待のコンパクトSUVがキックスだ。パワートレーンは、e-POWERのみ。6月24日の発表から4ヵ月が過ぎようとしているいま、車両開発主管の山本陽一さんに訊いた。「e-POWERのキックス、想定どおり売れていますか?」

Interviewer◎鈴木慎一(SUZUKI Shin-ichi)

日産キックスの車両価格は、Xが275万9900円、X ツートンインテリアエディションが286万9900円。
日産キックスは、2020年6月24日に発表、6月30日に発売された。日産にとってキックス、久々のニューモデルあると同時に、国内では新しいネームプレートを持つモデルだ。

キックスには2010年にデビューしたコンパクトクロスオーバー、ジュークの後継モデルという意味合いもある。国内でもグローバルで、いまもっとも競争の激しいセグメント「BセグSUV」に日産が投入したキックス。その開発責任者である山本陽一車両開発主管(CVE)に日産グローバル本社でインタビューした。

出足好調! だが、そもそもなぜジュークではなくキックスだったのか?

山本陽一(やまもと・よういち) 日産自動車 第二プロジェクト統括グループ 車両開発主管(CVE)


MF:キックス、セールスも出足好調のようですね。
山本CEV(以下・山本):おかげさまで。いま1万6500台受注しています。基本的には想定どおりの推移でご購入いただいています。
MF:新型コロナウイルスの影響などがあって、納期が遅れているという話がありましたが?
山本:11月から2直で増産態勢に入ります。タイの増産体制が整ったということです。いままでほどお時間をかけずにお届けできる態勢になりました。いままでお待たせしていましたが、基本的にほぼ年内に納車できるようになります。

MF:キックスの場合はすべてe-POWERなので、「パワートレーン、どれが一番売れていますか?」という質問は成り立たないのですが、グレードはふたつあるんでしたっけ?
山本:グレードといってもインテリアのカラーのチョイスで、「X」と「X ツートーンインテリアエディション」があります。
MF:基本的にモノグレードと考えていいんですね。
山本:そうです。グレードとしては1グレードでインテリアのオプションが2種類です。
MF:多くのかたは、ジュークやノート、他銘柄(他社)から乗り換えということになると思うのですが、購入層はどこからきているんですか?
山本:私は正確には情報を持っていないのですが、新規が約30%くらいです。新規とは他銘柄からの乗り換えという意味です。割と大きな数字だと思っています。
MF:日産→日産乗り換えだとどのモデルが多いのですか?
山本:やっぱりノート、あるいはジュークですね。一部キューブもあると聞いています。

日産は、月販目標台数を公表していない。「もちろん社内的には目標はあるのですが、公表はしていないんです」(山本さん)
ボディカラーのツートーン比率は約35%。一番人気はブリリアントホワイトパール(28%)、ブリリアントホワイトパール/ピュアブラックのツートン17%、ピュアブラックが11%で、56%が無彩色ということになる。イメージカラーのプレミアムホライズンオレンジは2%だ

MF:日産は長い間、ジュークがあって(2010-2019年)、2019年9月に欧州でジュークがフルモデルチェンジしたのに、「日本はキックスだ!」となって皆さん若干戸惑ったと思うんです。山本さんはこのクルマを任されていて、日産社内で、どんな戦略を立てられていたんですか?
山本:もともと私が参画する前に、ジュークかキックスかは、いろいろ議論がありました。いまの日本市場を見ると、やっぱりジュークではちょっと足りないところがどうしても出てきているので、最後は「キックス」という判断になりました。いまのコンパクトSUVのセグメントは、乗っていて楽しいし運転して楽しい。でも、それだけではなくて積載性の要求が非常に高くなってきています。欧州の新型ジュークを持ってくると積載性としては日本で少し受け入れられづらいなと考えました。初代ジュークは、デザイン面で高い評価をいただいて、ある意味このセグメントの基盤を作ったクルマです。クラスのリーダーとして君臨してきたのですが、日本でこれから長く売っていこうとすると、どうしても居住性とか家族で楽しく乗るっていうところが若干弱いところがありました。そこをちゃんとカバーしたクルマということでキックスでいこうを決めました。

初代日産ジューク 2010年デビュー。このジュークから「BセグSUV(クロスオーバー)市場」が生まれた。全長×全幅×全高:4165mm×1770mm×1565mm
2019年の欧州でデビューした新型ジューク。ボディサイズは全長が4210mmで、先代比+45mm。全幅は1800mmで+30mm。全高は1595mmで+30mm。ホイールベースは2636mm+106mmと、全方位的にひとまわり大きくなっている。それでもキックスの方が全長が80mm長い

MF:山本さんは現行の新しいジュークには全然関わっていらっしゃらない?
山本:はい。初代ジュークはちょっとやっていました。
MF:先ほど、ジュークは日本でもヒットしたけれど、後席とか荷室とかを考えるとより多くの人に買ってもらおうと思ったらちょっと足りないね、と。要するに、ジュークはかつてクーペを買っていたような人が乗るクルマ、昔だったらシルビアとかに乗っていた人がかっこいいから買うみたいな感じでしょうか。だけど、いま一番競争が激しいキックスが属するBセグSUVっていうのはそうじゃない、もうちょっとひと昔でいうと一番メインストリームのハッチバックのような……。
山本:そうですね、5ドアハッチバッククラスですね。
MF:そこがいま、みんなSUVに変わっていて、買い物から旅行から全部それでカバーするクルマになっています。基本的には都会で足クルマとして使うけれど、ちょっとオフロードへ行ってみたい気持ちもある。デートにも使うクルマです。
山本:そうです。私の個人的な話になるんですが、私の父は、ジュークが出たときにすぐに買ってくれたんです。でも、1年くらいで「狭くてだめだ」と特に荷物が積めないし、乗っていても窮屈だと言って、売っちゃったんです。そういう経験もあったので、やっぱり家族の皆さんに乗ってもらうにはジュークはふさわしいクルマではないなぁと前から思っていたので、キックスという方針は非常にウェルカムでしたね。

MF:じゃあキックスをやってね、と言われた時は、「よし!」っていう感じだったんですか?
山本:そうですね、はい。
MF:でもe-POWERを載せなきゃいけないし、プロパイロットもやれって言われるし……大変でしたね。
山本:それぞれが既存の技術ではあるのですが、やっぱりSUVにe-POWERを載せるのは初めての経験でしたし、プロパイロットもタイで作るのも含めてSUVに載せるのにかなり苦労しました。

1987年入社。車両開発部、車両設計部を経て、96年にNTC-NA車体設計部へ出向。フロンティアとエクステラの車体・フレーム部品設計など、北米生産車開発に従事した。98年には再び車体設計部に戻り、初代ムラーノ、11代目スカイラインを担当。2002年にはNTC-NA車体設計部でタイタンとアルマーダの車体・フレーム部品設計に加え、北米日産キャントン工場の立ち上げに関わった。05年には車体設計部主担としてフロンティア ナバラを担当。13年より車両開発主管としてジュークおよびキックスの開発を率いた

開発のベンチマークはヴェゼルだった

MF:先日、ヤリスクロスの試乗会でも、トヨタの開発者が「このカテゴリーはジュークから始まった」とおっしゃっていました。ジュークのあとに、フォロワーとしてルノー・キャプチャー、プジョー2008が出てきて、あっという間に、とくに欧州でこのカテゴリーができ上がりました。僕らも日本でもデビューしたとき、びっくりしました。「まさかコンセプトカーの格好のまま出るとは思わなかった。こんな奇抜な格好のクルマが売れるわけない」と思ったけれど、結果的にすごく売れました。ジュークは国内でもある一定以上の知名度があったと思うんです。それを捨ててキックスというのは、外野から見ると相当思い切ったなぁと思いました。キックスって日本では誰も聞いたことがなかった名前ですから。
山本:2016年にキックスは、初めてブラジルに出しました。その後、ブラジルでもいろんな国でも、すごく高い好評をいただいています。デザインもそうですし、とくに乗り心地とか、積載性も含めた総合的な評価がとても高かったので、「これは絶対日本でも受け入れられる」とみんながひとつの方向へ向いて「キックスでいこう」となりました。ただ、2016年に出したものをそのまま日本に出してもおそらく新鮮味もないので、日産の得意なe-POWERを積んで、しっかり開発していこうとなりました。

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日本は座間のGPECで一回作るわけですね。そこがマザー工場になる、と(MF)/ そうです。それで設備をタイに持って行って作りますので(山本)
MF:いまBセグSUVってものすごくライバルがいっぱいいて、日本だけじゃなくて欧州車にも強力なライバルがいます。
山本:欧州ですね。持っていないメーカーがほぼない。
MF:VWはT-クロス、T-ROCを、トヨタはヤリスクロスを出してきてPSAもルノーもあるしってなったときに、開発時に一番ベンチマークしたのはどのクルマになるのですか?
山本:キックスについてはホンダさんのヴェゼルですね。あとはトヨタさんのC-HR。C-HRはちょっとサイズも大きいですし、ちょっとカテゴリーは違うところはありますが、中心に置いて考えていたのはヴェゼルです。ヴェゼルを見ながら開発してきました。ヴェゼルは日本で非常に売れて好評だと思うので、そこに追いつけ追い越せっていうことで開発しました。
MF:そうか、ヴェゼルなのか。
山本:そこにトヨタさんのC-HRが来て、非常に静かで気持ちよく走る。インテリアも高級っていうところにけっこう衝撃を受けました。それを参考にしながら、2台を見ながら追いかけてきた感じですね。
MF:そういう意味ではベンチマークは欧州勢ではないんですね。
山本:そうですね。日本で出す場合は欧州勢ではないですね。
MF:というのはやっぱりe-POWERの特性として高速道路をずっと高速巡航するのは向いてないじゃないですか。となると欧州はダウンサイジングターボのジュークで、日本とアジアはe-POWERでという棲み分けができていたからですか?
山本:そうですね。棲み分けができていたので、クリアに競合車を設定してやりました。アジアのタイ向けについてもやっぱりヴェゼルとC-HRを中心に見てきました。
MF:確かに街中を走っているほうが燃費がいいですもんね。
山本:はい。そうですね。街中の記事にもしていただいて……。

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山本:そこは本当に絶対に負けないくらいのものができています。
MF:僕らは長距離を走って取材ということが頻繁にあるのですが、普通は高速道路に乗る機会ってそうでもないんですよね。
山本:はいそうですね。街中で使う方が絶対に多いですし、だからといって100km/hで走るとうるさいわけじゃない。多少燃費的には不利になってきますが、そこは普通のICEのクルマと変わらないレベルですし、非常に気持ちよく高速道路も走ります。

日産キックス X(FF) 全長×全幅×全高:4290mm×1760mm×1610mm ホイールベース:2620mm

MF:キックスは北米南米だとエンジンは1.6ℓNAです。当然e-POWERはないわけですよね。元々北米はジュークだったのをキックスにしたんですよね。
山本:そうですね。
MF:それは先ほどおっしゃっていたような理由ですか?
山本:そうです。このクラスは北米では小さい、積載性がちょっと足りないということでジュークからキックスへ換えていったのです。

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October 19, 2020 at 02:56PM
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